「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」
by KEN氏
さて本法が成立した経緯だが、昨今の少女達のいわゆる「援助交際」なる売春ブームも大きな立法要因ではあろうが、それ以上に影響を与えているのが我が国も締結し批准した「児童の権利に関する条約」であろう。本条約締結時の平成6年と言えば、我が国紳士諸君の東南アジアへの売春ツアーが花盛りのころで、国際的な非難も国内的な批判も盛り上がっていたときである。
我が国の援助交際と異なり、発展途上国における売春は生活のためのやむにやまれぬ手段であり、その悲惨さは筆舌に尽くしがたく、相手国の怒りも当然のことだったかもしれない。
我が国もいつか来た道であったが相手が外国人でなかった点が彼らと大きく異なる。自国のうら若き女性が外国人に買われて行く現実を我々なら冷静に見ていられるか?ナショナルプライドに火が付くのは当然で、心中察するに余りある。そして正義の国の欧米諸国がやいのやいのと騒ぎ本法が成立し、施行の日を迎えたわけである。日本ではいつもの事だが「外圧」には滅法弱い。
第1条(目的)この法律は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利の擁護に資することを目的とする。
参考までに各種法令の類似の規定では、次の通りとなっている。
児童又は売春を周旋した者若しくは児童の保護者等に経済的利得を与え又はその約束をして児童に対し性交等をすること。
(3) 児童ポルノ
媒体を問わず視覚により認識出来る方法で
風適法などと異なるのは,CD−ROMだとか電磁的記録装置などとせず,「その他の視覚により認識できる方法で描写するもの」として媒体を特定していない点である。このように規定しておけば将来の未知の方法が出現してもいかようにも対応できる。
(4) 性交等
性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等を触り、若しくは自己の性器等を触らせること。
(5) 性器等
性器、肛門、乳首
本来,過失犯は原則として罰せられないが、第4条の罪を除く本法違反は罰せられる。過失の有無の判断は容易ではないが以下の判例が比較的易しく過失について判示している。
最高裁大法廷判決 昭和4年9月3日
過失犯は行為当時において一般通常人が認識することができる事情及び行為者が特に認識していた事情を基礎とし、かつ、一般通常人の注意を払ったどうかによってその成否がきまる。
つまりは一般的な常識の有無(例えば戸籍抄本や住民票で容易に年齢は確認できる)や特に認識している事情(ヘルス等であれば児童を雇い入れるのは風適法により禁止されておりより高い注意義務があると言える)等を勘案して過失の有無を決めるという事である。公文書を偽造でもされていれば仕方ないが、形だけの確認では処罰は免れない。ここで注目したいのは4条すなわち買春をした者についてのみ過失であれば罰せられないという事である。これは重要な事なので忘れないでいただきたい。
(2) 国外犯の処罰(第10条)
我が国の法令は刑法3条によるものを除き「属地主義」が採られ、国外における犯罪は処罰の対象とはならない。しかしながら本法では「属人主義」が採られ、本法違反は総て国外犯も罰せられる。7条3項と8条2項はここから除かれているが、これは当然でこの二つの罪は国外でしか実行できない、国内犯は存在しないのだ。この全罰則の国外犯処罰は本法の最大の特色であり、我が国の法令でも希有の例ではないだろうか。
これを要すれば日本国民は地球上どこであっても買春や児童ポルノの取引をすれば罰せられるということである。特に欧米諸国はこういった問題に日本人では考えられないほど熱心なので「国外だから大丈夫」などと高を括っていたらとんでもない事になる可能性が高い。国外の方がより危険であると認識していてもいいであろう。
(3) 両罰規定(第11条)
4条違反を除く本法違反は行為者のほか属する法人又は人(言ってみれば法人ではない個人商店の店主)に対して罰金刑を科す。
法律として売買春を処罰する規定はなかったので本法で初登場である。ただし条例では類似規定が存在していたが法定刑こちらのほうが重くなっている。児童を買った側を処罰する規定である。ちなみに東京都の育成条例18条の2では1年の50万である。
(2) 児童買春の周旋をした者 3年以下の懲役又は300万円以下の罰金
類似規定が売防法6条1項にあるが2年の5万である。売春も買春も相手方から見るかこちらから見るかの違いだけで行為自体に何ら差異はない。ちなみに1回でも周旋すればこれに引っかかる
(3) 児童買春の周旋を業とした者:5年以下の懲役又は500万円以下の罰金
周旋を「業」とする処罰規定は売防法には存在しない。売春の当事者を自己の管理下に置いていなくても業とすれば罰する事ができるのは、売防法12条を強化したとの見方もできる。
(4) 周旋目的で児童買春の勧誘をした者:3年以下の懲役又は300万円以下の罰金
類似規定が売防法6条2項1号にある、2年の5万である。これも1回でアウト。
(5) 周旋目的で児童買春の勧誘をすることを業とした者:5年以下の懲役又は500万円以下の罰金
勧誘を「業」とする規定も売防法にはない。業とは早い話商売としてやっていた場合のことである。
(6) 児童ポルノを頒布、販売、業として貸与、公然陳列した者:3年以下の懲役又は300万円以下の罰金
刑法175条とほぼ重複するが(2年以下の懲役又は250万円以下の罰金)、こちらには「業として貸与」が新たに含まれることとなった。もちろん、友人間の貸し借り等はたとえ金員の授受 を伴ってもこれに当たらないのは自明である。あくまで「業」としてである。
ただし,その他は業であることを要せず,知人・友人間の行為でも本法違反となる。もし捕まって「いやぁ,友達に売ろうと思って・・・」などと言えば即逮捕であるので十分注意していただきたい。さらに類似規定として電波法108条があり、こちらは2年の10万円であるが有線通信は該当しない。
(7) (6)を目的とし、児童ポルノを製造、所持、運搬、本邦に輸出入した者:3年以下の懲役又は300万円以下の罰金
所持以外は今まで規制されていなかった全く新しい概念。所持は刑法175条後段に販売目的に限る所持を罰する規定がある(2年以下の懲役又は250万円以下の罰金)。
今までは裏ビデオ数本を所持していたり,持ち歩いても何ら処罰されなかったし,外国から持ち込んでも税関で没収されるだけであったが,今後はそれが児童ポルノであれば(6)の目的と意思を有していると言う理由で逮捕できるということである。たとえ1本でもそれを友人に転売しようとしているのであれば処罰の対象となる。
(8) (6)を目的とし、児童ポルノを外国に於いて輸入し、外国から輸出した者:3年以下の懲役又は300万円以下の罰金
本規定の趣旨は国外に於いてであり本邦ではなく外国に輸入し、外国から輸出することである。つまり、日本国籍を有する者が、例えば合衆国に於いて連合王国から輸入、輸出する場合を想定している。
(9) 児童を児童買春における相手方とさせ、児童ポルノを製造する目的で児童を売買した者: 1年以上10年以下の懲役
類似規定として児童福祉法34条7項があり、1年の30万である。
(10)(9)の目的で国外の児童で略取、誘拐、売買されたものをその国外に移送した日本国民:2年以上の有期懲役
これも(8)同様国外犯のみを対象にしているあまり前例のない規定である。また(9、10)ついては未遂も罰せられる。
なお、(1)から(5)、(7)(製造のみ)については児童福祉法34条6項にも抵触する、これの法定刑は重く10年以下の懲役又は50万円以下の罰金である。
5 その他
(1) 記事等の掲載等の禁止(第13条)
本法違反に係る児童については氏名、年齢、職業、学校名、住居、容貌等その児童を推知することができるような記事、写真、放送番組を新聞紙その他の出版物に掲載し放送してはならない。基本的に本規定は一頃騒がれた少年法61条と同様である。ただ、こちらは被害者の保護という点が少年法と大きく異なる。
報道(表現)の自由は憲法21条で保障されているのは自明であるが、それもある程度の制限が加えられるのは憲法も認めるところである。権利の濫用は許されないのだ。たとえば放送事業者は放送法3条による制限を受け、それに反すれば電波法76条1項により免許の停止等の行政処分を受ける可能性があるが、出版社等がもし本規定に反しても何も処分されない。
同じマスメディアでも一方は処分される可能性があり、一方は野放し状態となる。少年法と異なり、本法の保護対象が被害者であるということを考えると一考を要する問題ではなかろうか。また、損害賠償も出版社等の財務状況を考慮すれば微々たるもので何の効果もない、ただ一時期信用が落ちるだけである。合衆国のような天文学的損害賠償は必要ないであろうが、懲罰的損害賠償を科し、それを国庫に納付させるというようなある程度自制を促す措置も検討してはどうかと思う。
(2) 条例との関係(附則2条)
条例の規定でこの法律と競合する部分は本法施行と同時にその効力を失う。例えば本法4条と東京都育成条例18条の2は細かい文言は異なるもの、全く同様の行為を処罰する旨定めている が、本法施行と同時に育成条例の規定は無効となるわけである。さらに、条例の失効前、すなわち本法施行前にした違反行為は本法施行後に露見しても、原則として条例の規定で処罰される。(法不遡及の原則)
ただ注意しなければならないのは,本法と競合する部分についてのみ無効となるだけでその余については有効ということである。例えば「児童と婚姻を前提とする以外の性交をしてはならない」というような条例があれば,買春をした場合は本法で処断されるが,ナンパでした場合は条例により処断されると言うことである。つまりは,買春も当然に包含されている規定は,買春についてのみ無効となりその余は未だ有効な規定だということである。
「自分は大丈夫だと思った」「まさか自分が逮捕されるとは・・・」逮捕された方は例外なくそう言います。皆さんはそうならないよう切に願っています。