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風俗愛好者のための法律講座 その6

「風俗関連諸法(売春防止法)」

by KEN氏


 人類史上最古の職業とも言われる「売春」・・・何と切なく哀しい響きであろうか,春を売るという抽象的な表現で物事の本質を鋭くついている。日本語の切ないまでの美しさ,表現の豊かさに改めて感動してしまう。
 今回はその売春を規制する「売春防止法(売防法)」を取り上げてみた。

○ 目的

第1条  この法律は,売春が人としての尊厳を害し,性道徳に反し,社会の善良の風俗をみだすものであることにかんがみ,売春を助長する行為等を処罰するとともに,性行又は環境に照らして売春を行うおそれのある女子に対する補導処分及び保護更生の措置を講ずることによって,売春の防止を図ることを目的とする。

 注目すべきは,「助長する行為を処罰する」ことと「女子に対する補導処分,更生保護の措置を講ずる」という文言である。
 助長する行為,すなわち「管理売春」のことである。まだわが国が貧しかった時代,年端もいかぬ少女達が一家の犠牲となり僅かばかりの現金と引き換えに暗い青春を過ごさねばならなかった。人身売買である。まさに「人としての尊厳を害し」である。先進国の仲間入りをして贅沢の限りを尽くしているわが国にもそんな暗い,貧しい過去があったのは忘れてはならない事実であろう。こうして集められた少女達が「置屋」等で歯を食いしばり売春をしていた。これが「管理売春」である。そして僅かな債務に法外な利息を付し私腹を肥やしていた者がいたのである。少女達の青春を「搾取」していたのである。
 であるからこれらの者を「処罰」することとし,売春を「させられていた」女性達は処罰の前にまず,人生を補い導き,保護し,更生させることとしたわけである。

 こうした施策をするのが売春を防止するのにもっとも効果があると考えられていたのであろう。

○ 売春の定義

第2条  この法律で「売春」とは,対償を受け,又は受ける約束で,不特定の相手方と性交することをいう。

 対償とは何も現金である必要はない,何らかの利得があれば足りる。また,対償の授受は事後であると事前であるとを問わないのであり, ある程度時間が経過した後,つまり将来に与える約束をした場合も含まれると思われる。さらに実際に対償を授受しなくとも「約束」をした時点で売春となる。

 注意すべきは「不特定の相手方」であり,不特定「多数」である必要はない。たとえ1人でもその者が「道端で偶然出会った」不特定の相手であればそれで売春は成立する。

○ 罰則

*10年以下の懲役及び30万円以下の罰金
・人を自己の占有もしくは管理又は指定する場所に居住させ,売春をさせることを業とした者(12条)

*7年以下の懲役及び30万円以下の罰金
・売春を行う場所を提供することを業とした者(11条2項)
・事情を知りながら売春をさせる業に要する資金,土地又は建物を提供した者(13条2項)
*5年以下の懲役及び20万円以下の罰金
・ 7条の罪を犯した者(困惑等により売春をさせた者)がその売春の対償を収受し要求し約束したとき(8条1項)
・ 事情を知りながら売春を行う場所を提供する業に要する資金,土地又は建物を提供した者(13条1項)
*3年以下の懲役又は3年以下の懲役及び10万円以下の罰金
・ 人を脅迫し又は暴行を加え売春させた者(7条2項)
*3年以下の懲役又は10万円以下の罰金
・人を騙し若しくは困らせて売春をさせ,又は親族関係の影響力を利用して売春させた者(7条1項)
・売春した者に親族関係の影響力を利用し対償の提供を要求した者(8条2項)
・売春をさせる目的で前貸その他の方法により財産上の利益を提供した者(9条)
・人に売春をさせることを内容とする契約をした者及びその未遂(10条)
・事情を知りながら売春を行う場所を提供した者(11条1項)11条2項との違いに注意する。たった1回でも提供すれば本項違反となる。
*2年以下の懲役又は5万円以下の罰金
・売春の周旋(あっせん,仲介といった意味)をした者(6条1項)
・売春の周旋目的で売春の勧誘した者(6条2項1号)
・売春の周旋目的で売春の勧誘するため,公共の場所で身辺に立ちふさがり,つきまとった者(6条2項2号)
・売春の周旋目的で広告その他の類似方法で売春の誘引をする者(6条2項3号)
*6月以下の懲役又は1万円以下の罰金(5条各号)
・売春目的で公衆の目にふれるような方法で勧誘すること
・売春目的で売春の勧誘するため,公共の場所で身辺に立ちふさがり,つきまとうこと
・売春目的で公衆の目にふれるような方法で客待ちし,広告その他の類似方法で売春の誘引すること

 以上のとおり管理売春をする者にとって,法定刑はかなり重い。逆に売春婦に対してはかなり軽い。また,売春の相手方(つまり客)に対しては3条で一応売春の禁止を明確にしているものの,罰則規定はない。

 また意外と思われるかもしれないが,売春婦も5条の売春目的の勧誘等のみに罰則があるだけで,売春行為自体にたいする罰則規定は存在しない。これは制定当時の苦しい事情があったのであろう,法律起案者の苦労が偲ばれる。

 なお通常の犯罪では執行猶予期間中や以前に実刑になっている場合などは執行猶予がつかない(つまり実刑,刑務所へ行かなければならない)が5条の罪に限り,執行猶予期間中や実刑前科があっても例外的に執行猶予とすることができる。いわゆるダブル(執行猶予期間中の再度の執行猶予)トリプル(再々度の執行猶予)を前提にしていると考えていい。これもかなり温情的な規定である。

○ 補導処分

 売防法違反独特の処分である。上のとおり刑務所に行く可能性は低いが,この処分により婦人補導院に行かなければならない場合もある。ここでは改善更生のための必要な指導を受ける。期間は短く6月以内である。
 また婦人補導院を退院した時に執行猶予の期間が経過したとみなさる。事実上執行猶予の期間を短縮する効果があるわけである。執行猶予期間が経過すれば刑は言い渡されなかったこととなり(つまり実質的な前科の消滅である),再度逮捕されても初犯の扱いとなる。言ってみれば循環参照,堂々巡りみたいなものである。

 ただ最近はこの補導処分はほとんどない(というより売防法違反で正式裁判になる例がほとんどない)ようである。婦人補導院は法務省の施設等機関で,全国に唯一つ東京都八王子市にある。

○ 保護更生

 都道府県には婦人相談所が設けられ,各種の相談や指導を行っている。また女子の一時保護施設も併設されている。
 また,都道府県,市には非常勤地方公務員の婦人相談員がいる。言ってみれば売防法上の保護司のようなものである。

○ 終わりに

 以上駆け足で売春防止法を見てきたが,この法律の行間からは,最近の法律に見られない,愛と優しさと慈しみが伝わってくる。目指すは悪質な管理売春の撲滅であり,売春婦達にはきっちり逃げ場を作り決して追いつめることはしない,彼女たちの自力更生を望んでいるように見える,まことに愛に溢れた法律である。本法が売春「取締」法ではなく,売春「防止」法となっているのもその現れであろう。

 最近の女子高校生が「援助交際」などとしゃれた呼び方でやっていることは「売春」そのものである。昔の売春少女達は体こそ自由にはならなかったであろうが,いつかこの状況から開放されることに僅かな希望を胸に抱いて必死に頑張っていたであろう,体は売っても心は優しく豊かなはずだった,なにせ家族のためにしていたのだから。

 エンコーなどと言ってはしゃいでいる少女達は自分が何をしているのか,法律云々の前に心の問題として考えて欲しいと願わずにはいられない。