人の多い休日の新宿東口にもかかわらず昭和館の前だけはひっそりとしている。昭和館は建物自体しなびていて今時めずらしいくらいである。「もしかしたら客なんてだれもいないかも知れない」と思いながらも、入り口を観察していると中年のおっさんが出てきた。私は大人料金\1,600をどぶに捨てたつもりで、入場券をかったのだった。しかしその反面「もしかして新しい何かが得られるかも知れない」という淡い希望もこの時点ではまだ捨てきれないでいた。
上映時間表をみると全部で3本立てで全部見ると3時間近くかかる。「\1,600で3時間楽しめればまあいいか。」私は現在時刻を確かめて、みすぼらしい館内に入っていった。切符きりのおばちゃんに半券を切られ、誰もいないロビーを抜け、ホールのドアを開けた。
薄暗い館内を見渡すと、なんと100人ぐらい収容できる会場の半分近くが埋まっているではないか!しかしよくみるとほとんどが50,60のじいさまばかりである。 20代と思われるような客は私だけである。
席についてみていると、どこからか煙があがっている。よく見ると客が会場のあちこちで煙草をすっていたのだ。壁にはでかでかと「場内禁煙、喫煙した方は3万円の罰金を頂きます」と書いてあるが誰も気にしている様子はない。そして更に見渡すと怪しいリズムで右手を動かしているじいさんなどが見受けられた。
映画の内容はというと「三十路女の濡れた入り口」とかいうタイトルで、ドラマ仕立てのストーリーものである。しかしこの主役の三十路女がまったくブスである。しかもフィルムが古く、映画に出てくる町並みから判断しても、(昭和館だけあって)、どう見ても昭和4,50年代に撮影したもののようだ。
肝心のカメラショットのほうはというと、映っているのはおっぱいとおしりくらいできわどいものはいっさいない。現在のAVを見たことがある人はとても観賞に耐えられないだろう。
途中延々とどへたくそなドラマが繰り返されたと思うと、40ぐらいのおばちゃんのオナニーシーンが10分ちかく続く。ビデオだったら完全に早送りのところだが、映画ではそうはいかないのが心苦しい。
結局私は当初の目標を果たすことなく、1時間弱で劇場を後にした。あまりのつまらなさと館内の異臭に耐えきれなかったのだ。
私は思った。「彼ら(じいさん)は何を求めてこの映画館に足を運ぶのだろうか?ピンサロに行く金もないのか?家にビデオがないのか?あっても家族がいて見れないのか? それとも今のAVや風俗は彼らには刺激が強すぎるのか?だからあえて古き良き時代の成人映画を楽しんでいるのか?」
今となってはその答えはわからないが、ただ一つはっきりしているのは「自分は将来じじいになっても成人映画館にだけは通うまいぞ。」という私の決意である。