by ぱるる氏
しかし本当にこれは,失笑してしまうほど下らないキャッチコピーなのだろうか?実際にはそうではなく,HIVの問題を身近な問題として捉える必要があることが,理論的な研究からも知られている。ここではソーシャルネットワーキング(mixiなど)において語られる,「6次の隔たり (six degrees of separation) 」理論,およびその論拠となっているMilgram (1967) [1]におけるSmall-world problemを,「元彼の元彼女の元彼の元彼女の元彼がエイズでないとは限らない」というキャッチコピーを真剣に捉えるべき理由として挙げたい。以下にこれらの理論を簡単に紹介する。
この方法で,5人の知り合いを介在した「知り合いの知り合いの…知り合い」の数を計算すると,
読み難いであろうが,3億1250万人である。日本人の総人口をはるかに上回っている。皆が等質に50人の友人を持っているわけではないし,友人とは基本的に重複しているものである。よってこれはあくまでも机上の空論にすぎないが,可能性としては「5人の知人を介して未知のだれかと繋がることは十分にありえる」ことを示しているだろう。
ネットワークに詳しい方であれば,パケットのルーティング問題を考えていただければ,大体のイメージはつかんでいただけるのではないだろうか。
この実験は,2000年代に入ってから電子メールを利用して追試がされている。その結果は,2万通以上のメールを出して,到着したメールは僅か数百通(到達率2%)という惨憺たるものであった。ただし,メールが到着する場合にはほぼ6-7回のメール転送で到着しており,「到着する場合には6次の隔たりが成り立つ」という結論であった [2] 。
ただし注意するべきは,所謂「6次の繋がり」とは違い,「元彼の元彼女の元彼の元彼女の元彼がエイズであった」としても,それはあなたがHIVキャリアになることを意味してはいない。知り合いであり,感染可能性のある性関係があったとしても,感染する確率は(少なくとも一回の性行為では)低い。その意味で「元彼の元彼女の元彼の元彼女の元彼がエイズでないとは限らない」というコピーは,若干は恐怖を煽り過ぎている感はある。しかし「低確率だから…」という言葉は何の意味ももたないことには注意していただきたい。筆者は宝くじの高額当選者になったことはない。なので高額当選者はまるで夢の世界であるが,現実に当選者はおり彼らにとってはそれが現実である。確率がいかに低かろうと,ゼロでない以上は感染することは十二分に起こりうるのだ。またよく「1回くらい大丈夫」という声を聞くが,確率論的には「1回目で感染する可能性」が最も高いのである。
特に我々のような風俗愛好者は,感染の可能性は高いことに注意していただきたい。風俗嬢という職業を誹謗するわけではないが,風俗嬢の性病への感染リスクは非常に高い。そして我々はその風俗嬢と,何らかの関係を持っているのである。むやみに恐れる事はないが,リスクを理解して通っていただきたい。特に超高級ソープなどの,NS+生中などの店は快感と引き換えにそれなりのリスクを背負っていることに注意されたい。
もっとも繰り返しとなるが,本稿はむやみに恐れを煽るものではない。一般的なヘルスサービスであれば感染の可能性は非常に低いし,NS+生中であってもそもそもお相手が感染者でない確率の方が圧倒的に高いし,感染するとも限らない。ただし,ゼロではないリスクがそこには存在するということには留意して欲しい。
また「そんなん,怖くないわー」と嘯く人には,是非,一度血液検査を受けることをお勧めする。筆者は職業上の理由で定期的に総合病院での健康診断を受けているが,その際にオプションで血液検査を付けている。検査結果を聞くまでの心境たるや…とても一言では語れない。一度,自分の背後にはリスクの谷が存在することを理解する上で,血液検査を受けてみるのはいかがだろうか。
リスクと楽しさは風俗遊びにおいては表裏一体である。今後も皆さんが,性病に被弾することなく楽しんで遊んでいかれることを期待する。
参考文献
[1] Stanley Milgram, “The Small-World Problem.”, Psychology Today, vol.1, no.1, pp.60-67, 1967.
[2] http://www.smallworld.columbia.edu/index.html
西日本本部 直轄主席研究員 ぱるる (H17.12.23)