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研究論文「エイズ あなたは関係ないと思っていませんか?」

by ぱるる氏


1.はじめに

 「エイズ あなたは関係ないと思っていませんか?」を掲げたレッドリボンキャンペーン2005も12月27日をもって終了する。これを機会に,風俗を愛好する人が避けては通れない最大のリスクである,エイズを含む性病のリスクについて考えてみたい。

2.元彼の元彼女の元彼の元彼女の元彼がエイズでないとは限らない

「元彼の元彼女の元彼の元彼女の元彼がエイズでないとは限らない」という一見過激なキャッチコピーのテレビCMを見たことはないだろうか?筆者にとってこれは,「あなたとHIV感染とは無関係ではない」ということを示唆する妥当なキャッチコピーと思われたが,筆者の周囲の実世界の住人,および顔も見たこともないインターネット社会内での反応には「失笑してしまった」「確率低すぎ」などの反応が見られた。

 しかし本当にこれは,失笑してしまうほど下らないキャッチコピーなのだろうか?実際にはそうではなく,HIVの問題を身近な問題として捉える必要があることが,理論的な研究からも知られている。ここではソーシャルネットワーキング(mixiなど)において語られる,「6次の隔たり (six degrees of separation) 」理論,およびその論拠となっているMilgram (1967) [1]におけるSmall-world problemを,「元彼の元彼女の元彼の元彼女の元彼がエイズでないとは限らない」というキャッチコピーを真剣に捉えるべき理由として挙げたい。以下にこれらの理論を簡単に紹介する。

2.1. 6次の隔たり理論

 6次の隔たり理論とは,世界中の任意の2人は知り合いの知り合いの知り合いの…という連鎖を考えると,5人程度の知り合いを介して間接的につながっているとする考え方である。この概念はソーシャルネットワーキングサービスなどを語る際に引き合いに出されることが多い。「そんなわけあるかよ!」という意見に対して,直感的な理解を得ることのできる単純な計算方法が,数学で習ったことのある「べき乗計算」である。例えば,ある日本人は20人の日本人の知人を持っていると仮定しよう(「日本人」としたのは,日本人がコンゴ人を知り合いに持つ可能性は有意に低いからである。後述するが,世界中の人々の間での繋がりは等質ではなく,国家や民族を単位としたグループを形成しており,このことは6次の隔たり理論を「世界中」に敷衍することの妥当性に疑問を投げかける)。すると,「知り合いの知り合い」の数は以下のように計算される。

50^2=2500    (1)
※「^」はべき乗記号を表す

この方法で,5人の知り合いを介在した「知り合いの知り合いの…知り合い」の数を計算すると,

50^5=312500000   (2)

 読み難いであろうが,3億1250万人である。日本人の総人口をはるかに上回っている。皆が等質に50人の友人を持っているわけではないし,友人とは基本的に重複しているものである。よってこれはあくまでも机上の空論にすぎないが,可能性としては「5人の知人を介して未知のだれかと繋がることは十分にありえる」ことを示しているだろう。
 ネットワークに詳しい方であれば,パケットのルーティング問題を考えていただければ,大体のイメージはつかんでいただけるのではないだろうか。

2.2. Small world problem

 「6次の隔たり理論」とはそもそも,Milgramによって1967年におこなわれた実験に基づいている。人と人がどのように結びついているかという問題については,社会心理学の分野において,グラフ理論を用いた研究がおこなわれてきた。Milgramはグラフ理論による予測を実証的に検討する実験をおこなった。まず最初にカンザス州およびネブラスカ州の住人の中から,300人の住民を実験参加者として無作為に抽出し彼女/彼らに手紙を渡した。ついでマサチューセッツ州の受取人を呈示し,そこまで届けるように要求した。ただしカンザス州およびネブラスカ州の実験参加者は直接に受取人へ手紙を届けるのではなく,親しい人間を経由してマサチューセッツ州の最終受取人へ手紙を届けることが求められた。すなわち,人と人との間の「知り合い関係」だけを利用して,全く未知の人間に対して手紙を届けられるかどうかを調べることにより,「知り合い関係」により人と人がどのように結びついているかを検討したのである。この結果,Milgramは「米国内のある人物Aから別の人物Bへと手紙を転送する実験を行った場合に,到着した場合の経由人数は5.5人」であると報告した。一般的に「6次の隔たり」が語られる場合は,このMilgram (1967)の知見をもとに「5人の介在者を介して世界中の任意の2人が繋がる」と言われるが,実際のMilgram (1967)の結果は(1)2者の関係は米国内に限定される,(2)到着した場合の結果にすぎない(マサチューセッツまで到着した手紙はわずか3割弱に過ぎない)点に注意する必要はある。

 この実験は,2000年代に入ってから電子メールを利用して追試がされている。その結果は,2万通以上のメールを出して,到着したメールは僅か数百通(到達率2%)という惨憺たるものであった。ただし,メールが到着する場合にはほぼ6-7回のメール転送で到着しており,「到着する場合には6次の隔たりが成り立つ」という結論であった [2] 。

3.風俗店に通うということ

 さて理論的な話ばかりが先行したが,これがHIVを含む性病とどのように関連するのだろうか?まさに「元彼の元彼女の元彼の元彼女の元彼がエイズでないとは限らない」という言葉に尽きるだろう。ある人と性病感染の可能性のある行為に及ぶということは,「その人と性病感染の可能性のある行為をした人」と間接的に繋がりを持つ,すなわち性病を伝播される可能性があるということである。そして「6次の隔たり」の理論を鑑みれば,数は少ないとはいえ,HIVキャリアの人とつながりがあると考えても良いだろう。

 ただし注意するべきは,所謂「6次の繋がり」とは違い,「元彼の元彼女の元彼の元彼女の元彼がエイズであった」としても,それはあなたがHIVキャリアになることを意味してはいない。知り合いであり,感染可能性のある性関係があったとしても,感染する確率は(少なくとも一回の性行為では)低い。その意味で「元彼の元彼女の元彼の元彼女の元彼がエイズでないとは限らない」というコピーは,若干は恐怖を煽り過ぎている感はある。しかし「低確率だから…」という言葉は何の意味ももたないことには注意していただきたい。筆者は宝くじの高額当選者になったことはない。なので高額当選者はまるで夢の世界であるが,現実に当選者はおり彼らにとってはそれが現実である。確率がいかに低かろうと,ゼロでない以上は感染することは十二分に起こりうるのだ。またよく「1回くらい大丈夫」という声を聞くが,確率論的には「1回目で感染する可能性」が最も高いのである。

 特に我々のような風俗愛好者は,感染の可能性は高いことに注意していただきたい。風俗嬢という職業を誹謗するわけではないが,風俗嬢の性病への感染リスクは非常に高い。そして我々はその風俗嬢と,何らかの関係を持っているのである。むやみに恐れる事はないが,リスクを理解して通っていただきたい。特に超高級ソープなどの,NS+生中などの店は快感と引き換えにそれなりのリスクを背負っていることに注意されたい。

4.おわりに

 本論文では,Milgram (1967)に基づいて提唱された「6次の隔たり」理論に基づいて,対エイズキャンペーンのキャッチコピー「元彼の元彼女の元彼の元彼女の元彼がエイズでないとは限らない」という言葉は,軽視するべきものではないことを示した。

 もっとも繰り返しとなるが,本稿はむやみに恐れを煽るものではない。一般的なヘルスサービスであれば感染の可能性は非常に低いし,NS+生中であってもそもそもお相手が感染者でない確率の方が圧倒的に高いし,感染するとも限らない。ただし,ゼロではないリスクがそこには存在するということには留意して欲しい。

 また「そんなん,怖くないわー」と嘯く人には,是非,一度血液検査を受けることをお勧めする。筆者は職業上の理由で定期的に総合病院での健康診断を受けているが,その際にオプションで血液検査を付けている。検査結果を聞くまでの心境たるや…とても一言では語れない。一度,自分の背後にはリスクの谷が存在することを理解する上で,血液検査を受けてみるのはいかがだろうか。

 リスクと楽しさは風俗遊びにおいては表裏一体である。今後も皆さんが,性病に被弾することなく楽しんで遊んでいかれることを期待する。

 

参考文献

[1] Stanley Milgram, “The Small-World Problem.”, Psychology Today, vol.1, no.1, pp.60-67, 1967.
[2] http://www.smallworld.columbia.edu/index.html

 西日本本部 直轄主席研究員 ぱるる (H17.12.23)

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