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論文「性風俗店舗数動態の数学モデル化に関する研究(摘発モデルの導入)」

by 黒川洋介氏




 平成18年に報告した性風俗関連特殊営業店の店舗数動態に関する研究では、平成12年から平成17年の6年間の店舗登録数の推移から、性風俗店舗動態の数学モデル化を試みてみました。
  論文「風俗店舗数動態の数学モデル化に関する研究」
 しかしながら、風営法「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」が平成17年11月に改定され平成18年5月から施行された事により、この数学モデルに見直しを行う必要が出てきました。

■警察庁の資料

 【表】性風俗関連特殊営業の届出数の推移(平成12〜20年)
性風俗店営業の届出数

【グラフ1】デリヘル・ホテヘル等の届出数の推移(平成12〜20年)
デリヘル等営業の届出数の推移

 グラフ1を見て判るとおり、平成18年に届出数が大幅に減少しています。
 平成17年の大幅改定により、派遣系ファッションヘルス(デリヘル)に関しては、受付所や待機所なども店舗とみなされ、住所などの届出が必要とされ、営業禁止区域内にあるそれらの施設は摘発対象となりました。そして、新規の届出者に新たに住民票の写し及び事務所等の使用権を有する書類等の提出、既届出者にも改めて当該書類等の提出が義務付けられたことにより、届出が出来なくなったり摘発が進んだ事により、大幅に減少したものと考えられます。

■デリヘル届出数減少のモデル化

 前の論文で数式化した当初の爆発的な届出数増加のモデルは以下の通りでした。
 増加に関するパラメーターをpとすれば、届出数Sの地域における増加率は、
    (dS)/(dt) = pS
で表されます。この様に指数曲線で表せば、あっという間に店舗数爆発が引き起こされるのが表現できます。

 この数式を発展させ、摘発による届出店舗の減少をモデル化します。
 数学モデル化を容易にするために、減少が起こる原因を、改定により摘発が増すためだと単純化します。つまり、新たな性サービス業態が出現し店舗数(届出数)が幾何級数的に増えると、風営法が改定され、急激な摘発により届出店舗数が激減し、そして摘発も減少する、と仮定することにします。また、届出数や摘発数の増加・減少は不連続で階段的な形を取りますが、数学的な扱いを簡便にするために連続的な値を取るものと見なします。
 仮定から、県警本部の摘発増加は、摘発数および性風俗店の店舗数に比例していることになり、性風俗店は摘発されることによって減少するので、式に適応すると以下の通りとなります。
    (dS)/(dt) = pS - qSE
 Sは届出数、Eは摘発数、pは届出数増加に関するパラメータ、qは摘発数増加に関するパラメータ、tは時間を表しています。

 このモデルが現実の統計資料にどれくらい当てはまるのか、グラフ化すれば直感的に評価出来ますが、この微分方程式は、このままでは解く事が出来ませんので、exclでグラフ化できるように簡単な連立微分方程式として差分形でモデル化を行います。

■モデルのグラフ化

 ある年(基準年)からn年後の届出数をSn、摘発数をEnとします。基準年にはSo、Eoの数の届出店と摘発店があったとします。
 摘発がなければ、毎年届出店の数はp倍ずつ増加するとすれば
    Sn+1 = Sn + pSn
となります。ここで、届出数は摘発数に影響されると仮定しているので、増加率pは摘発数に影響されるとして、
    Sn+1 = Sn + (p - qEn)Sn ・・・・・式(1)
と式を見直します。
 摘発数は、改定後には時間がたてば違法店が存在しなくなるにつれ減っていくので、それをr倍とすれば
    En+1 = En - rEn
となります。同じ様に、減少率rは届出数の存在に影響を受けるので、
    En+1 = En - (r - kSn)En ・・・・・式(2)
と式に影響を導入して見直します。

 基準年の届出数Soと摘発数Eo、パラメータp、q、r、kの値については、何度かexclで計算グラフ化して比較的適合する値を設定しました。その結果が以下のグラフです。

 【グラフ2】式(1)と式(2)の差分展開グラフ
モデルのグラフ化
 このグラフ2は、y軸方向が店舗数(届出数、摘発数)で、x軸方向が時間です。
 届出数の山のところで風営法が改定され、摘発が急激に始まったことを表現できています。このグラフ2とグラフ1を見て判るとおり、届出数の推移を統計資料に比較的良く当てはめる事が出来る為、仮説モデル式が妥当であると評価できます。

■考察その1

 さて、風営法が改定されてしばらく経つと、各都道府県警本部の摘発の期間が長くなり取締り回数が減ってくるので、改定内容の抜け道を突いて次第に届出店舗数がまた増えてくると予想されます。すると新たな社会問題と化して、何らかの形で風営法の改定を誘引し摘発が厳しく行われる事になる。この様に、性風俗産業は同じ事を繰り返していると想定できます。
 そこで、上記のモデル式(1)と式(2)のn時間軸をさらに伸ばして、モデル式の動きをグラフ化すると、以下の様になります。

 【グラフ3】式(1)と式(2)の時間軸伸張グラフ
モデルの時間軸伸張グラフ
 y軸方向が店舗数(届出数、摘発数)で、x軸方向が時間です。

 このグラフ3は、式(1)届出数の最初の山を平成10年5月改定で無店舗型が届出対象になった時だと仮定すると、届出で公認される事でかえって派遣系ファッションヘルス(デリヘル)が増加する結果を生み、社会問題化して、二つ目の山(平成17年11月)の所で風営法が改定されたことを示唆しています。パラメータを変えると山の位置が変わるので決定的とは言えませんが、この様に繰り返すと仮定すると、今後6年〜8年の間に次の改定があるとの予測も成り立ちます。

■地域出店上限モデルの導入

 無店舗型とはいえ店舗型と同じ様に現実にはある限定された地域で営業しており、そこで営業できる店舗数には上限があると見るのが自然です。つまり店舗数が多くなると、その増加にブレーキがかかるものと想定します。
 パラメータとしては、合法な届出店舗が増えて一定の規模になると届出数増加率が頭打ちになる性質の式を導入する必要があります。
 条件を整理すると以下の通りです。
 この条件を満たした式は、以下のような形で表現できます。
    (dS)/(dt) = (Z - S)pS - qSE
 このままでは解く事が出来ませんので、exclでグラフ化できるようにデリヘル届出数減少モデルと同じ考えで簡単な連立微分方程式として差分形でモデル化を行います。

  ある年(基準年)からn年後の届出数をSn、摘発数をEnとします。毎年届出店の数はp倍ずつ増加するが届出数は摘発数に影響されると仮定し、増加率pは摘発数に影響されるとして、届出数に限界数Zがあると仮定すると、
    Sn+1 = Sn + (p - qEn)(Z - Sn) ・・・・・式(3)
と式を立てる事が出来ます。
 摘発数は減少率をr倍とし、同じ様に、減少率rは届出数の存在に影響を受けるとすると、
    En+1 = En - (r - kSn)En ・・・・・・・・式(4)
となります。

 限界数Z、パラメータp、q、r、kの値については、何度かexclで計算グラフ化して比較的適合する値を設定しました。その結果が以下のグラフです。

 【グラフ4】式(3)と式(4)の差分展開グラフ
モデルのグラフ化
 y軸方向が店舗数(届出数、摘発数)で、x軸方向が時間です。

■考察その2

 このモデル式(3)のグラフ4は、店舗型ファッションヘルス(箱ヘル)の届出店舗数の推移をかなり表現しています。比較の為に箱ヘルの届出数の統計資料をグラフ化します。

 【グラフ5】箱ヘル等の届出数の推移(平成12〜20年)
箱ヘル等営業の届出数の推移

 デリヘルと同じ様に、箱ヘルも平成18年に大幅に減少しており、改定で摘発が強化されたものによると考えられます。改定前までは届出数が増加していますが、地域の限界数に近づいている為に増加がなだらかになり頭打ちになっているものと考えられます。要因としては、固定費として店舗の維持が大変であることや、新たに出店するなら初期投資が少なくてすむデリヘルに業態変化している事などが考えられます。

 また、性風俗産業の王道であるソープランドは、様々な規制に縛られており、地域での出店数に限界が明確です。同じ様に統計資料をグラフ化します。

 【グラフ6】ソープランドの届出数の推移(平成12〜20年)
ソープランドの届出数の推移

 他の性風俗産業業態に比べたら変化に乏しいですが、モデル式(3)に近似した動きを見せており、ここからもモデル式(3)を評価することが出来ると考えます。

 以上、独断と偏見の上、乱文で申し訳ありませんが投稿いたします。

 May a pinsalo be with you.   
 研究部 風俗産業・経済研究室長 黒川洋介 (H21.06.04)
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