〜©日本ピンサロ研究会〜

風俗愛好者のための法律講座 その4

「風俗関連諸法(刑法)」

by KEN氏


 我が国の刑事政策の基本となるのが実体法としての刑法と手続法としての刑事訴訟法である。刑法は罪刑法定主義の根幹であり,各種の犯罪が定められている。しかしそれでは対処しきれないので,売春防止法などの(刑法を一般法とする)特別法がそれこそ星の数ほど制定されている。今回はとりあえず刑法の(性)風俗関連のみ考察してみる。
 なお、風俗に関連する諸法については、風俗関連諸法体系図を参照して欲しい。

 風俗に関連するのは第22章「わいせつ,姦淫及び重婚の罪」であり,そのうちの第174条が最も肝要である。

  刑法第174条(公然わいせつ)
 公然とわいせつな行為をした者は,6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

本条にいう「公然」とはどういうことか?
これは判例で示されている。

  昭和32年5月22日 最高裁判所判決
 「公然とは,不特定又は多数人が認識しうる状態をいう」

 ここで注意しなければならないのは「不特定多数」ではなく,「不特定」又は「多人数」となっていることである。「なんだ,たいした違いはないじゃないか」と思っている方がいたら大間違いである。「又は」の一句が挿入されているだけで解釈は全くの別物となる。  「不特定多数」=「不特定」かつ「多数人」でありいずれの条件も(不特定も多数人も)満たされなければ,条件成就とはならない。ところが「又は」であるといずれか一つの条件をみたしていれば良いことになる。
これをまとめると

                   「かつ」    「又は」
特定少数  (家族など)        ×       ×
不特定少数 (待合室など)       ×       ○
特定多数  (職場の宴会など)     ×       ○
不特定多数 (街中やライブ会場など)  ○       ○

となる。つまり「又は」はほとんどの場合に該当してしまうことになる。
もう一つ注意すべきは,「〜が認識しうる状態をいう」という文言である。つまり「認識する状態(見ている状態)」である必要はなく,「認識しうる状態(見ることが出来る状態)」であればよく,実際に誰も見ていなくても見ることが可能な状況ならば良いのである。

 さてこれを風俗の形態に当てはめていくと,ソープ,ヘルスは個室でありどう拡大解釈しても本条は適用しようがないが(個室がガラス張りなら別だが)ピンサロは「平塚ジャンジャン」摘発の際適用されたとおり,個室になっているわけではないので,これに該当する場合が当然に発生する。
 ピンサロがどのような形態で営業許可を得ているか知らないが,風営法の条文を見る限り,同法第2条第5号又は第6号の可能性が大きい。
 風俗営業等の規制及び業務の適正化に関する法律第2条(用語の意義)「一部抜粋」において「風俗営業」とは,次の各号のいずれかに該当する営業をいう。

 第5号
  喫茶店,バーその他の設備を設けて客に飲食させる営業で,国家公安委員会規則で定めるところにより計った客席における照度を10ルクス以下として営むもの。

 第6号
 喫茶店,バーその他の設備を設けて客に飲食させる営業で,他から見通すことが困難であり,かつ,その広さが5平方メートル以下である客席をもうけて営むもの。

 5号許可は照度(店舗内の照明の明るさ)を落としている(暗くしている)だけなので,「公然」に該当する可能性が高い(真っ暗闇なら話は別だが・・・)
 6号許可はどうか?「他から見通すことが困難」ということは「認識しえない状態」が現出するのではないか?と考えたくなる。実際に他の席(客)を見るのが難しい店と容易な店とがあるし,席の場所によっては見づらい場所と見やすい場所がある。これについては裁判例が1件もなく,実際に摘発されて正式裁判になり裁判官がどう判断するかによるが,状況によっては争う余地(無罪を主張する余地)は残されているような気がする。

 公然わいせつ罪によるピンサロの摘発が,我が国刑法史上「平塚ジャンジャン」のわずか1例であり,逮捕されたほとんどの者が(たぶん)略式又は起訴猶予若しくは不起訴のため,判例・裁判例の蓄積が全くない現状では,判断の難しいところである。
 ちなみに「平塚ジャンジャン」摘発の際,逮捕された女の子は,通称ヨンパチ(逮捕状若しくは現行犯逮捕で身柄を拘束できるのは,警察が48時間,検察官が24時間で合計72時間まで。それ以降は勾留状が必要になる。警察の持ち時間をとってこう呼ばれている。)で釈放され,略式命令で罰金15万円であったと,実際に逮捕された女の子から聞いた。たぶん客も同様か,それ超えていることはないであろう。
 今後仮に同種事件があっても(ないことを切に願うが・・・)量刑は同様程度(罰金15万円)が予想される。

 なお,174条の法定刑のなかの科料は9,999円を限度とし,拘留は29日を限度とし,いずれもそれ以下となる。罰金は特別な事情がない限り下限は1万円である。