〜日本ピンサロ研究会〜

論文「性感染症について 淋菌感染症 その1」

by クフィル氏


 風俗遊びをする上で避けて通れないSTD感染症に対して正しい知識を持ち、不測の事態に際しても冷静に対処するための参考となれば幸いである。

淋菌感染症とは

 淋菌(Neisseria gonorrhoeae)は,二つのコーヒー豆を合わせたような形状をした,大きさ約1μmのグラム陰性双球菌である。好気性菌ではあるが,5%程度のCO2存在下で増殖が促進される。生体外環境下での生息能力は低く,33℃以下の低温あるいは42℃以上の高温,そして乾燥状態といった条件下で速やかに死滅するため,感染形式の殆どが人から人への性行為によるものとなる。

最近の淋菌感染症の特徴

1)患者数増加と多様化
 1987年に開始された定点調査によると,HIVが恐れられた1992年から1994年にいったん淋菌感染症の患者数が減少した後,ふたたび増加に一途を辿っている。これは、クラミジア・トラコマチィス(Chlamydia trachomatis)感染症も同様の傾向にある。原因としては,わが国におけるHIV感染症患者の増加が予想を下回り,STDに対する恐怖感が薄れたこと,経口避妊薬の解禁によりコンドームの使用頻度が低下したことがあげられる。さらに近年の特徴としては,オーラルセックスにより感染する淋菌感染症が急増していることがあげられる。これは,オーラルセックスではSTDに感染しないという誤解が広がったことによるものと思われる。

2)ニューキノロン薬耐性菌の増加
 抗菌化学療法の普及によって,当初,淋菌感染症に有効とされたペニシリン薬が従来より一般的に使用されたが,1980年代になりペニシリンを分解しペニシリナーゼを産生する淋菌(penicillinase producing Neisseria gonorrhoeae,PPNG)が世界的に蔓延した。そして,同時期に普及したニューキノロン薬がPPNG以外にSTDの原因微生物であるChamydia?trachomatis にも有効であったため,ニューキノロン薬が汎用されるようになった。これにより現在PPNGは殆ど存在しなくなったが,逆に1990年代よりニューキノロン耐性菌が蔓延している。ニューキロン薬耐性淋菌の割合は地域によって異なるが,40〜60%である。

淋菌感染症の診断法

1)検体
 男性の尿道炎患者では尿道分泌物,尿道スワブ,あるいは初尿(朝一番の尿)を,女性では子宮頸部のスワブを,そして咽頭感染を疑う場合は咽頭スワブを用いる。

2)検査法
(1)培養法
 淋菌の分離には,Thayer-Martin培地あるいはチョコレート寒天培地に検体を塗布し,2.5〜3%のCO2存在下で培養する。これにより,24〜48時間で灰色,半透明なコロニーが形成される。このコロニーについて,さらに淋菌を同定する。検体を培養に供するまでに淋菌が死滅することが少なくなく,PCR法などに比べ偽陰性が多い。したがって,同一施設内で培養法による分離同定を行なうのであれば問題ないが,他施設に外注する場合にはこのことに注意すべきである。一方,淋菌の薬剤感受性は,培養法でなければ不可能である。

(2)PCR(Polymerase chain reaction)法
 検体を淋菌の16S ribosomal RNA遺伝子の塩基配列の一部に相補的な2種類のoligonucleotide NG-AとNG-Bをプライマーとし,変性95℃,アニーリング55℃,伸長72℃,とし,温度サイクルを32回繰り返す。そしてPCR混合液を2%アガロースゲルにて電気泳動を行い,ethidium bromide 染色にて塩基配列より予想される206bpのDNA断片の出現をもって陽性と判定する。抗体量が少ない時にも同定が可能で非常に鋭敏であること,判定までの時間が培養検査より短いこと,検体の搬送が簡便であること,同じ検体でクラミジアをPCR法で検索できることなどの理由から,現在培養法に代わり広く普及している。
 PCR法の問題点は,淋菌が死滅しても抗原が残存した場合に結果が陽性になること,尿を検体とした場合に尿がPCR反応を抑制する場合があるため,その場合,結果は陰性となることである。
 PCR法と類似した検査法としてLCR法(ligase chain reaction )がある。

※【淋菌感染症 その2】につづく

 中・四国支部長 クフィル (H16.09.19)

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