〜©日本ピンサロ研究会〜

「風俗愛好者のための法律講座 〜実務編〜」

by KEN氏


 何らかの犯罪を犯し逮捕される・・・善良な市民としてこれは何としても避けたいものである。家族には見放され,職場も懲戒解雇,上司にはリストラの手間が省けたと喜ばれ,経営者には退職金なしで放り出せたと感謝され,親兄弟にはポロポロ泣かれて,場合によっては住宅ローンを上回る損害賠償を科せられ,一生債務のために働く・・・やだやだ。
 ということで,今回は「実務編」と称し,刑事手続きの流れを簡単に紹介してみる。

 とある日,P太君は某ピンサロにいた。すると急に照明が明るくなり人相の悪いおっさんがどかどか入ってきて怒鳴っている,手入れだ!「動くな!」「そのままそのまま!」「おぅい!お前!ズボンはくなよ!」おっさん達の怒声が響く。彼は事の真っ最中,ふと見上げるとおっさんがニコニコしながら「はいそのままね,お嬢ちゃんもそのまま動かんでねぇ,おぅカクさん,わっぱわっぱ,ここ現逮」怖そうなおっさんは猫なで声でP太君とY嬢に「じゃね,公然わいせつの現行犯ね,20時37分逮捕っと」

 逮捕には「通常逮捕(逮捕状)」「現行犯逮捕」「緊急逮捕」がある。法的な手続きは異なるが身柄を拘束されるのは同じである。手錠をかけられパトカーなり護送車に揺られて警察署に直行するのは間違いなしである。ちなみに現行犯逮捕は誰でもできる。私もあなたもできる,警察官でなくてもよい。(刑訴法213条)P太君が何か勘違いして隣の客を「何をしている!公然わいせつ罪の現行犯で逮捕する!」と言って身柄を拘束しても法令上は問題ない。店にしこたま文句を言われるだろうが。

 通常,身体・所持品の検査や物の差押えは捜索差押令状等がなければ出来ないが(刑訴法218条),逮捕した被疑者(俗に言う容疑者)の場合は令状がなくても,逮捕現場に限り検査や差押ができる。あくまで「現場」である,この場合は店の中であり,警察署で行う場合は令状が必要。(刑訴法220条)

 逮捕して警察が身柄を拘束できるのは48時間である。その際に,犯罪事実の要旨と弁護人選任権の告知を受け,弁解の機会が与えられる。このときうまいこと言い訳すれば「留置の必要なし」として釈放されるかもしれない。しかし取調官の逆鱗に触れ「留置の必要あり」となれば,この時間内に検察官に送致(俗に言う送検)される。
(刑訴法203条)よく逮捕の際「何時何分逮捕」と警察官が言っているが別に伊達や酔狂で言っているわけではなく,この48「時間」の規定のためである。

 さて取調べの始まりである。このとき供述拒否権(黙秘権)が告知される(刑訴法198条2項)。選択は基本的に3つあり,罪を認めるか(是認),俺はやってねぇと言うか(否認),だんまりを決め込むか(黙秘)のいずれかであるそれぞれをうまく使い分ける絡め技もあるがボロが出る可能性大である。政治犯達には黙秘の人気が高いが一般人はほとんどが観念する。

 取調べは実に詳細に行われる,氏名,本籍,住所はもちろん,家族構成や勤務先,業務内容等も聞かれるときもある。一見犯罪と関係ないように思われる質問は人定のためである。P太君がP太君であることをまずは明らかにしなければならないのだ。
 そしてその日の行動,店に行った動機,一緒に行った仲間等々,もちろん店の中でいつ,どこで,誰と,誰が,何を,どのようにしたのか事細かに聞かれる。それを書面にしたものが供述調書(員面調書)である。これは裁判となれば検察側の書証(甲号証)として裁判所に提出される。本人の犯罪事実を証明するとともに,他人の犯罪の立証にも使われる大事な文書である。そして実況検分(俗に言う現場検証)があり,快楽の一時と同じ事を,いかつい警察官の面前でしなければならないかもしれない。きっと当事者には拷問以外の何物でもないであろう。
 否認であれば,この取調べで供述を拒否できるし,無実である旨の供述をすることもできる。但し取調べ自体を拒否することはできない(刑訴法198条1項)

 通常調書が完成した段階で読み聞かせて誤りがあるか否かを被疑者に確認し署名押印するのだが,この署名押印を拒否することもできる。土壇場にきて「やっぱし〜らない」でもOK(刑訴法198条5項)であるが取調官の心中を察するとあまり進められることではない,それならはなから認めないほうがよっぽど心証はいい。また調書の内容が違っていれば訂正を申立てることができる(刑訴法198条4項)

 さてこの段階で2つの道に別れる身柄送検か釈放か・・・身柄送検ならまだ我慢,釈放も書類送検,処分保留,嫌疑不十分等その法的性格は異なるがとりあえず娑婆であることに変わりはない。基本的に否認,黙秘,主犯格は確実に柄付送検,是認していて軽微な事犯であれば書類送検か処分保留かと言ったところであろう。送検と言っても何も実態はかわならい。24時間延長になったと思えば良い。これは検察官の持ち時間である。ここが運命の分かれ道,さらに調べが必要であれば被疑勾留(刑訴法205条),何もなければ略式命令で50万円以下の罰金で釈放,場合によっては在宅で起訴,運がよければ起訴猶予,嫌疑不十分で釈放である。
 被疑勾留がついたら腰を据えた方がいい,娑婆はさらに遠のいたのだ。基本的に10日,必要があればさらに10日身柄を拘束されての取調べである(刑訴法208条)。

 ここからが本物の取調べだ,カツ丼が出てきたり,机を叩いたり,時には田舎の親の話が出てきたりするのがだいたいこのときであろう。そう,あなたの人生がドラマになる瞬間である。この被疑勾留の20日間は否認・黙秘している者にとっては辛いものとなる,面会も非常に制限され,接見等禁止決定など出されたら目も当てられない,弁護士以外とは会えないのだ。その弁護士も捜査の事情で日時を指定されたりする(刑訴法39条)。

 一日中取調室にいることを想像していただきたい,「やっぱほんとのこと言ちゃおうかぁ・・・」と思うのもこの時期ではないだろうか,警察の腕の見せどころである。そしてここでは警察以外に検察官の調べも行われる。警察での調べでだいたい終わっているが,公訴提起・公判維持の視点から検察官も取調べを行う。ここでも供述調書(検面調書)が作成されるが,概要は員面調書と同様である。被疑者の段階でも弁護人を選任できるが,被告人と異なり国選弁護人の制度がないので総て私選,つまり自費である。
 一般的な方は弁護士に知り合いなどいないので,弁護士会の当番弁護士制 度を利用することになる。ちなみに被疑者の段階では弁護人がいない方が圧倒的に多い。

 ここまできてまた2つの道にわかれる,起訴か釈放かである,釈放も略式命令・起訴猶予・不起訴等色々な事由があるが当事者にはどうでもよい,要は娑婆に帰れるのだ。しかし起訴された者はここで身分が晴れて被告人となる。もちろん今度は被告勾留がついている。在宅(被疑勾留されていなかった者)が起訴で突如勾留されることもある。正に晴天の霹靂・・・被告勾留は最初2月で以後1月づつの更新である。
 被疑勾留と異なるのは実質的に期間の制限がないということである。極端なところ死ぬまで勾留できる(刑訴法60条)。そして起訴されてまで頑強に否認・黙秘している者はまたまた接見等禁止決定が出され,面会・手紙の発受が弁護人以外とはできないし,場合によっては新聞も本も何も読めない(刑訴法81条),そして被告人は留置場ではなく拘置所(法令上は監獄という)に収監されるのが原則だからいずれ拘置所に行く(刑訴法73条2項),ここでは1人部屋・・・誰とも話すこともできない過酷な環境に置かれる。

 ここまでくるとウソをついていた者は大後悔である,やったのなら早い段階で正直に言った方がいい,世の中そんなに甘くない,この状況で耐えられるのは本当に無実か,ランボーなみの精神の持ち主か,常習的にやっかいになっている者ぐらいである。

 ちなみにレアケースとして鑑定留置がある。これは犯罪実行時の精神状態を調べるもので,責任能力の有無を確かめるものである。通常公判中に弁護人から請求されて行われる事が多いが(刑訴法167条),最近では起訴前にされる例が急増している(刑訴法224条)。確かに起訴してから鑑定するより合理的ではあるが尋常でない犯罪が多発している証拠でもある。
 なぜこんなことをするかと言うと,心神喪失者の行為は無罪とされ,心神耗弱者の行為は刑が軽減されるからである(刑法39条)ただ,被疑勾留のかわりに鑑定留置となれば拘束期間は長くなる,被疑勾留が20日が限度なのに対し鑑定留置は被告勾留と同様の月単位の期間である。実際に少なくとも2月は留置されるようである。

 ここまでが逮捕から起訴されるまでの流れである,ちょっとは分かって頂けただろうか?折りを見て起訴から公判の流れを紹介しようと思う。