〜©日本ピンサロ研究会〜

随筆「"あたご"は100%悪いのか」

by KEN氏


 今回も本来のうちの趣旨とは大きくかけ離れますが,ご容赦ください。もうこれ以上我が海上自衛隊が叩かれ続けるのを看過していることは出来ません。

 海上自衛隊はこの先もきっと言い訳はしないでしょう。英国海軍を師と仰ぐ帝國海軍の血脈を受け継ぐ,サイレントネイビー。沈黙の海軍ですから。

 今回の事件は,個人的にどうにも納得できない部分が多々あります。

1 なぜ清流丸だけ回避しなかったのか?
 当時同一行動を取っていたほかの漁船はしっかり回避しています。なぜ,該当船だけが回避しなかったのでしょうか?
 これは私の推測ですが,普段,大型船に対しては,漁船などの小型船は,優先航行権に関係なく,航路を譲っていたのではないか?と思えるのです。慣例としてそうしていたのではないかと。
 大型船は舵が効きにくい,これは素人でも容易に推察出来ると思います。例えば,映画タイタニックの氷に激突するシーンを見てみてください。全速後進を掛けて取り舵一杯をかけても,直ぐには船の行き足は止まりませんし,方向転換も簡単にはいきません。今回の「あたご」は基準排水量で7700トン,満載排水量で10000トンを超える大型艦です。世界のイージス艦の中でも,最大の船であり,往時の重巡洋艦並の大きさです。そうそう舵が簡単に効くとは思えません。
 しかし,小型の漁船ならどうでしょうか。モーターボートなどとそう変らない程度の大きさの船です,かなりの小回りが効くはずです。
 鈍重な船が迫っている,優先権はこちら,回避義務はあちらにある,と分かっていても,自分の船なら簡単に転舵出来る,ならば普通は小型船の方が回避してしまうのではないでしょうか。
 つまりあたごはいつものように,漁船が回避してくれるものと判断したのではないでしょうか?通常の生活でも,法律はこうだけれど,実際は。。。と言う場面に良く出くわすはず,もしかしたら,今回もそうした日常と同じ事が起こっていたのかもしれない,そう思えてならないのです。裁判でも法律論に続いて「常識から見て」「慣例的に見て」(時には,慣習法と言う形で法律同様の効果を持つ場合もあります)と言う視点,論点は必ず加味されます。
 また,あたごの見張りについて,批判が出ていますが,では,漁船の見張りはどうだったのか?小型船は見張りをしなくともいいのか。まさかそのような事はないでしょう。海上で最優先の航行権を与えられるらしい漁労中であっても,見張りの義務が免除されるとは思えません。
 自動車の交通事故でも,双方の過失割合が言われるわけですが,今回は何故か,漁船側の見張り体制については誰も何も言いません。何故なのでしょうか?  僚船は回避している事実から見ると,果たして見張りをしていたのか,正直疑問が残るところです。

2 最強のイージス艦は万能か
 AIEGSシステムは確かに,最強の”防空”システムと言われています。そうです,防空です。ですから対空レーダーはSPY-1Dと言う,とても強力なレーダーを装備していますが,対水上レーダーやソナーはほとんど在来護衛艦と変らないものを搭載しています。まして,FRP製の漁船のCRSは相当小さいものと思って間違いありません。同じ大きさの鋼船よりもレーダーには反応し辛いはずです。
 AIEGSシステムは,音速で飛翔してくるミサイルから艦隊を守る事を最大の任務として建造されました。小型の漁船を避けることを主眼に建造された船ではありません。センサーの点から見れば,水上監視能力は,多分,タンカーなどと大差ないのではないかと思います。もちろん,そのデータ処理能力には格段の差がありますが,ハード的には,決して全ての災厄から身を守ってくれる盾AIEGSではないのです。
 逆に漁船のセンサーはどうだったのか,興味がもたれます。小型の対水上レーダーくらいは積んでいたのではないでしょうか?もし積んでいれば,その監視は誰がどうしていたのか。。。いくらステルス性を念頭に設計された艦体でも,10000トンの船は相当なRCSだったと思います。それを発見できない訳がないと思うのは私だけでしょうか?ここでも漁船の監視体制に疑問が残ります。

3 監督者が事情を聞くのに他官庁の許可が必要なのか
 これは全く理解できません。まだ誰にも令状も何も出ていないのです。まさか事故を起こした船の乗員は,上陸はもちろん,船外の者と接触してはいけないと言うのでしょうか?逆に海上保安庁がもし,許可が必要だと言うなら,それは明らかに,海上保安庁の違法行為です。なんの拘束の根拠を持たぬ者に,船から出るには許可が必要などと言うのは,不当な制限で明らかに違法行為です。これで事情聴取して供述調書を取って,万が一違法な身柄の拘束に伴う違法な証拠だ,と主張されたらどうする気でしょうか?捜査機関としては慎重さに欠け過ぎます,マスコミに迎合しすぎです。
 まさか防衛省も自身の部下から話を聞くのに,警察機関の許可を要するなどと思っていなかったはずです。まして,指揮下の艦艇に乗り込んで部下に事情を聞くことに何が問題があるのでしょうか?立ち入り禁止の措置でも取られていたのでしょうか?仮に,海上保安庁が,そのような事を言っているのであれば,逆にこれは糾弾されるべき重大な人権侵害事案です。日弁連もこのような法律上の根拠がない不当な拘束を黙って見過ごす事はないと信じています。それとも,自衛官には,殺人者にさえある人権も何もないと言うのでしょうか。
 大体,何か問題が起これば,上司が部下に報告を求めるのは当然の事ではないのではないでしょうか?どこの組織でもそれはごく普通に行われているはずです。海上保安庁でもそうではないのでしょうか?それが,何の根拠も無い海上保安庁の承諾がないのを理由に「口裏あわせ」などというマスメディアには呆れてしまいます。それに対し調子に乗って「そのような報告は受けていない」などとマスメディアに流す海上保安庁もいい加減にしてほしいです。元々,承諾を受ける根拠も,報告を受ける権利もないはずです。
 今後船舶事故の際は,どのような組織,機関に対しても,同様の姿勢で臨むのか,海保に聞いてみたいところです。

4 自衛艦であるが故。。。
 今回は,相手が自衛艦であったがために大騒ぎになったような印象を受けています。果たしてこれが「あたご」ではなく,タンカーならどうだったか,多分,マスコミもここまで執拗に追求しないはずです。特に,もはや中国共産党の準機関紙のような印象を受ける朝日新聞などは,嬉々としていることでしょう。
 大臣に対する報告が遅い,危機管理がなっていないと言いますが,今回は平時の事故です。北朝鮮から弾道弾が発射されたわけでも,中共の潜水艦が領海侵犯したわけでもありません。本来の危機管理とは意味が違うのではないでしょうか。確かに国民2名が亡くなっているのは悲しい事ですが,これを持ってして,日本の主権が侵害される事は有り得ません。
 なだしお事故の教訓が云々と言われていますが,あれは湾内での遊漁船と潜水艦の事故です。一体外洋で漁船と護衛艦の事故とどう共通性があるのでしょうか?唯一共通のファクターは「自衛艦」が絡んだ事故,と言う点だけです。それも潜水艦と護衛艦,まだまだフェリーと護衛艦の方が共通点が多いはすです。潜水艦は船の中でも全くの別物,水上での運動性の悪さは外見を見れば素人でも分かるはずです。それを教訓にしろと言うのは,鉄道会社のバスが起こした事故を,同じ鉄道会社の列車事故の教訓にしろと言うようなものです。
 必要以上に海上自衛隊を貶めようとする,マスコミの意図を感じざる得ません。
 海上自衛隊にも少し苦言を。言いたい事ははっきり言うべきではないでしょうか,沈黙は美徳はもはや日本のマスコミには通用しません,叩けるところはとことん叩く,商業的に価値がありそうなネタなら例え国益に反するものでも平気で載せて,時には捏造さえいとわない集団なのですから。  また,いつまでも捜索を続けるのは果たして正しい事なのでしょうか。何百億もする艦艇や航空機を使って,もう見つからないと誰もが分かっているのに捜索を続けるのは,偽善でしかありません。

 会長 KEN